Ⅲ.
「あの人は風の中」×「amayadori 宿雨 -prototype-」特別本醸造
◇河武醸造「amayadori 宿雨 -prototype- 特別本醸造」
本醸造のイメージを覆す「新しい本醸造酒」シリーズ。
純米酒が主流の昨今、「普通の酒を最高品質に」チャレンジを続ける、安政四年(1857年)創業の老舗蔵。仕込み水は伊勢神宮に流れる川と同系の宮川水系。
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光陰矢の如し
あんなに優しかったのに
今は甘酸っぱい それでも
目を凝らして 過去に思い描いた今は
私を裏切らなかった
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枇杷のような落ち着いた果実香を含んだ柔らかくミルキーな香り。
初めは味わいも柔らかで爽やかで優しく甘い。すあまや菱餅みたいな甘い餅。
少し経つと、ラムネやパイナップルみたいに爽やかでフルーティーな酸味が訪れる。最初の印象から瞬く間に変わる印象。
従来、キレと香りを引き出すためにアルコール添加する本醸造を、無濾過生原酒の中取りという重みや味わいを引き出すような方法で搾る。
それと思われている価値を無力化するようにも思われる手法で新たな価値を創造する。紙やすりのざらざらしたマチエールと叙情的な白の対比からのイメージ。
味わいのイメージは、想い出の中の彼の人への感傷から。
Ⅳ.
「バレエ『ジゼル』より 踊るスカート」×「天吹 冬に恋する純米大吟醸」
◇天吹醸造「天吹 冬に恋する純米大吟醸」
創業元禄年間(1688年~1704年)の老舗ながら新しい酵母「花酵母」にこだわり、様々な花から分離した酵母で酒を醸す蔵。仕込み水は背振山系のまろやかな伏流水。
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少女のゆめ 刀自の祈り
設えられた舞台で舞いを誂える
あの日仕立てたチュチュに
貴女が傷つけられないよう
針山が祈る
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花酵母に醸された、りんごや白桃のような華やかな甘い香り。
りんごの蜜のような甘さが舌の上で雪の結晶のようにしゅっと溶ける。
後味に、ビターなキャラメルのようなほろ苦さ。
日本酒ビギナーをターゲットにしていると明言する蔵の冬の限定酒は、甘く華やかで飲みやすく、可愛いけれど、その柔らかさは長い歴史と技術の試行錯誤に支えられている。ほんのり残る深い苦味。