Ⅰ.
「ヴェネツィア」×「和の月 60生酛原酒」有機米純米吟醸酒
◇月の井酒造店「和の月 60生酛原酒 有機米純米吟醸酒」
目には映らない 確かに在るもの
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黄昏時
昼と夜の狭間
黄金の空と水面だけが荘厳に輝く
他には何も見えない
見たいものは 何も
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3年以上無農薬・有機肥料で育てられた米を使用し、酒造りのすべての工程において有機的工法の厳しい基準をクリアした希少なオーガニック日本酒。
商品としてだけの有機ではなく、「日々の健康をまもる有機本来の役割をもったお酒」を目指して、茨城県初の有機米づくりからはじまり、醸造用乳酸や酵母も一切添加しない古式由来の生酛造りを採り入れ醸造された有機のお酒『和の月』は、急逝した6代目蔵元・坂本和彦氏と現社長・坂本敬子氏の「体にいいオーガニックのお酒をつくりたい」という想いから生まれた。志半ばで急逝した和彦氏の文字をラベルにしている。
当然だが、お酒の味から造り手の背景は見えない。
見えなくても、手をかけて造られた有機米から醸される深い滋味と強いボディ、生酛造りという伝統製法が生み出す複雑な風味や味わい、幾重にも重なる空や海の光が放つ重厚さや荘厳さのように、ずっしりと表現される。
「誰そ彼」。道で出会った人の顔も判別できない黄昏時。
目には映らないヴェネツィアの歴史や人々の生活がある。
【PAIRING COMMENT】見えないものに裏付けされた味わいの重厚さ複雑さと、作品の重厚さ荘厳さの重なり。また、志を継いで作品を世に繋げる想いの連鎖を重ねました。
Ⅱ.
「成蹊大学 入口」×「水尾 一味」純米酒
◇田中屋酒造店「水尾 一味」純米酒
道
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この美しい世界を讃える道 美しい
進むも退くも
木洩れ陽がキラキラと世界を讃える
進むも退くも
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酒蔵の所在地・飯山市産のひとごこちを100%使用した滋味深い純米酒。
純米酒の持つ米の厚みもありながら、軽快な香味が特徴的な辛口のお酒。
口に含むと、すっきりライムやコブミカンの葉みたいな爽やかな風味がふぅっと鼻から喉から奥に抜け、後にはミントすら思わせるクリアなフレーバー。
キラキラと視界に照る木洩れ陽の道。
いずれに往くもその道は輝き、行き交う人々にエールを送る。
【PAIRING COMMENT】木洩れ陽のキラキラ感と柑橘やミントのようなスッキリ感を、重ねました。
Ⅲ.
「五浦海岸(六角堂)」×「七ツ梅 山田錦生酛」特別純米酒
◇小山本家酒造 灘浜福鶴蔵「七ツ梅 山田錦生酛」特別純米酒
シナプスの悪戯
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その色合いと群生するビジュアルから連想されたもう一つのイメージ
紫蘇の実の紫 紫蘇といえば梅 永遠の黄金タッグ
梅酒の梅のような後味の酸味にバトンが繋がる
連想ゲームのように、脳のシナプスが連鎖する
景色を作る
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「七ツ梅」は、元禄7年(1694年)には存在していたという銘柄。元は「摂州伊丹の酒」として、伊丹酒全盛の時代に江戸への下り酒で人気を博したが、後に灘酒の興隆と共に衰退、天保13年(1842年)には現在の埼玉県深谷市の商店に銘柄が譲渡された。しかし時代の変遷の中、この商店も平成15年に廃業、現在の小山本家酒造に銘柄を譲渡。小山本家酒造の本社は埼玉県さいたま市だが、「七ツ梅」が醸造されているのは灘の灘浜福鶴蔵。
米の旨味と乳酸の酸味がバランス良く際立つ生酛仕込みの特別純米。
後味の酸味は、梅酒の梅のような、爽やかで濃縮された風味。
空と同期した海辺の花の色から香りが匂い立つような感覚。
七ツ時に寒中梅の香りがひときわ匂い立つように、その時その場で生み出される香りの景色。
五浦の海岸はその一つだけだが、海辺に咲く紫という景色は海辺におしなべて受け継がれる。
【PAIRING COMMENT】飲んだ瞬間、なぜかこの海辺の景色と脳内で繋がった後味の酸味。イメージを紐解いていくと、海辺の紫がシナプスをだだだだっと繋げていたらしい。(海辺に咲く紫の花はおそらくハマエンドウ?)